REVOLUTION EVOLUTION
>> ENGLISH
革命は内的なもの日本を含めた西側諸国、あるいは中国を抜かしたG8と言ってもいい……それらの国々について思いを巡らせると、退廃という言葉が浮かんでくる。生物学でいう退化でもいい。無関心と冷笑的態度がはびこる私たちの日常を、他にどうやったら説明できるんだろう?
その気になればいつでも実行できる
進化はまだ終わっちゃいない……
(ゴーゴル・ボールデロ(Gogol Bordello)の曲、「Raise The Knowledge」より)
私は1991年から東京の語学学校でフランス語と英語を教えている。自分自身のルールとして、警察や自衛隊(日本軍)、アメリカ軍に所属している生徒は教えないようにしてきた。そういう団体からはお金はいただきたくないからだ。でも私はただの教師で、学校の経営には関わっていない。経営者はイスラエル人で、おそらくシオニストだ。彼と政治について話したことはないけれど、私がどういう政治的意見の持ち主なのか、彼は知っているはずだ。私は自分の立場を表明するため、カフィエを首に巻いて出勤したことがあるから。
ここ数年、この学校では、アメリカ軍関係の受講者がますます増えてきている。中国語、ペルシャ語、タイ語、インドネシア語、朝鮮語といった各地の言葉を習うために現在も大勢のアメリカ軍関係者が通っている。フランス語を学ぶ25歳の兵隊もそのひとり。もちろん、私の受け持ちの生徒ではない。シオニスト、親パレスチナ、そしてアメリカの軍人が同じ場所に集まれば、衝突が起きてもよさそうなものだが、全然そうはならない。資本主義に裏打ちされた民主主義が対立の芽を摘み取り、私たちを欲ばりな売女へと変えてしまうのだ。私は挨拶をするのもイヤなので、できるだけ彼らを避けるようにしている。とはいえ、学校はそれほど広くないので、どうしたって面と向かって話さざるを得ないことだってある。
25歳のアメリカ兵の話の続きをしよう。彼はすでに2年ほどこの学校に通っている。先日、タバコを吸うためにバルコニーに出てみると、その兵隊が受け持ちの教師であるモロッコ出身のフランス語教師と談笑していた。二人に声をかけると、私の同僚は、そのアメリカ兵がいかに刺激的な生活を送ってきたかを私に話して聞かせた。驚くべきことに、そのアメリカ野郎はイラクとアフガニスタンにも行っていたらしい。その日以来、彼の方から声をかけてくるようになり、たびたびイラクとアフガニスタンでの冒険について聞かされるようになった。暑さが厳しいことや、礼拝の時刻を知らせる騒音のような呼びかけが一日五回も流れることに辟易したと、愚痴をこぼされたこともある。正直言うと、うんざりだ。彼に対してというよりも、そんな犯罪者と一緒にタバコを吸いながら笑ったり言葉を交わしている自分自身に対して怒りを覚える。そう、彼は犯罪者だ。
* * *
“アメリカとイギリスによって先導されたイラクへの戦争は違法だった”
コフィー・アナン(インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙2004年9月17日金曜日掲載「国連事務総長、イラク戦争を違法と指摘」 ニューヨークの国連本部、AP通信)
* * *
違法な戦争だったのだとしたら、それに参加した者も、事態を黙って受け入れた者も、みんな犯罪者だと言える。そのアメリカ兵に対して私は皮肉なコメントを返したり、イラクとアフガニスタンでアメリカがやってきたことは間違っているという自分の意見をはっきりと伝えている。でも、できることはそれだけだ。犯罪者と同じ空間にいなければいけないという状況にはストレスを覚える。アメリカ兵が隣の部屋でフランス語の授業を受けていると、つい聞き耳を立ててしまう。そのため自分の生徒を教えることに集中できないこともあるほどだ。学校の教務担当者に相談してみたこともあるが、彼女は無感動に「まあ、軍人だって自分の仕事をしているだけだから」と言う。でも、軍人はただの職業なんかじゃない。彼らがやっているのは仕事ではない。第二次世界大戦以降の日本は、三つの悪者に怯えてきた。共産主義、北朝鮮、そして中国。日本政府は主要メディアを使って、彼らに対する恐怖を国民の心に植え付け、国民は自ら進んで思考停止という気楽な立場へと逃げ込んだ。そんな人たちとまともな議論を成立させるのは不可能だ。
911(チリのではなく、アメリカの)以来、日本は主人であるアメリカの外交政策と同調するために、悪者のリストに新たなメンバーを加えることにした。それはイスラム。下のリンクの記事を読めば、日本政府のイスラム教徒に対するおおよその態度が分かると思う。
http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/fl20101109zg.html
北朝鮮、中国、アラブ人は日本政府やメディアから悪者扱いをされているのみならず、人々の冷笑の的になっている。日本人だけではく、西洋人もそういう態度で彼らを扱う。
【冷笑】 意地悪く笑い者にする、あざ笑う、嘲り笑う
G8の国々に話を戻そう。冷笑されるべきは、他ならぬ私たちだ。バカげていて、危険な臆病者。抗鬱剤とバイアグラを飲みまくる、西側の堕落した人間。そんな私たちが他の社会を笑えるだろうか?
先日のデイリー・ヨミウリ紙には次のような見出しがあった。
「“中国は国際法を遵守しなければならない”と、オバマ大統領」
……これはさすがに誰も笑えない。バカバカしいにもほどがあるというものだ。この発言によって、オバマはもう一度ノーベル平和賞をもらったらいい。私だって中国がしていることは好きになれないが、この発言には呆れてしまった。グァンタナモやアブグレイブ刑務所に収容されていた人々に向かってこのセリフを吐いてみるがいい。
アメリカ、親愛なる私たちの指導者よ。
私たちがあざ笑っている人々は、私たちが支える権力によってねじ伏せられているので、何も言い返すことができない。でも、私たち自身はどうだ? 民主主義や、自由、権利、そういうものを持っているはずの私たちは? 大手銀行が破産したら、その救済のために身銭を切らされる、取るに足りないちっぽけな存在。緊縮財政計画によって社会福祉予算や教育機関への補助金がカットされ、定年の年齢が繰り上げられ、自然環境はどんどん悪化する……その他にも日々味わわされる屈辱感。それに対して私たちは何ができるだろう? どうすることもできもない。私たちの指導者たちはみな嘘つきで、盗人で、祖国をイラク侵攻という、最大級の国際犯罪に向かわせた戦犯だ。私たちが消費する石油のためにイラクでは100万人以上が死んだのだ。イラクに限らず略奪のための戦争は各地で繰り広げられている。私たちにはそれを止める術がない。民主主義の番人を標榜する主要メディアは日々、政府から垂れ流される情報をそのままニュースとして伝え、思考を麻痺させるような番組を流し、スポーツやセックスや暴力で人の注意を引きつけようとする。それに対して何ができる? 何も。
よその国は私たちが手にすべき天然資源を持っている。そんな国には、民主主義的に爆弾を雨あられと降らせてしまえという。爆撃開始の五分前になって通りでデモをやる以外、私たちにできることはないんだろうか? 何もない。
精神を病んだ民主主義のなかで、歯止めのきかなくなった資本主義経済は利益追求のハイウェイを突っ走りながら、すべてを破壊する。失業、貧困、惨めな生活、日本で年間三万人を超える自殺者……病に犯された民主主義を直すために、何ができるだろう? どうすることもできない。
西欧的な価値観や(何もしないでいる)自由、(大量虐殺を行なう)西側の文明に対する最大の脅威はイスラム教徒や移民である……そんな考え方を信じ込まされそうになったとき、私たちはどうしたらいい? フランスの指導者たち(そのなかの一人は社会党員)は学校でのヴェールの着用を禁止した。外出時に肌を隠すことを強制されていた、2000人弱のイスラム教徒の若い女性たちを解放せねばとの配慮からだった。でも、世界中では何万人もの女性たちが、野蛮な資本主義のシステムのせいで肌をさらし、性器を商売道具にせざるを得ない状況に置かれている。テレビ、インターネット、世界中の本屋や売店で販売されている印刷物のなかで、商品化された性が溢れている。民主主義を謳う国々の美しい首都でもそうだし、住宅地の自動販売機で女子高生の使用済みパンティを売っている東京も同じだ。こんな世の中なのに、私たちはまったく何もできずにいる。
自由、権利、民主主義、その他、西洋世界が掲げる価値観を持っていながら、私たちはそれを用いて少しでも世界を住みやすい場所に変えられただろうか? 世界全体でなくてもいい。自分自身の住む腐った社会を変えるために、何か行動をしてきただろうか? 否。ひたすら否だ。
できるのはせいぜい、イスラム教徒や移民、イラン、中国、北朝鮮を敵にしつらえることぐらい。だから、私たちは冷笑されるべきなのだ。哀しいくらい愚かな存在として。
笑うべき愚かな存在になった気分……私がイラクやアフガニスタンに派遣されていたアメリカ兵に挨拶したり、一緒にタバコを吸いながら談笑しているときに感じるのはそんな感情だ。反アメリカで、親パレスチナなのに、犯罪者と普通に挨拶を交わし、シオニストの元で働いている自分。なんでこんなことになったんだろう? 喰っていくためには仕方がない、それはひとつの言い訳になる。でも自分が喰うために、人を餓えさせるのは許されざる行為だ。私の例は偉大なる西洋文明の縮図だと言える。そうやって先進国は繁栄してきた。無数の人々による日常的な行動の積み重ね……ひとつひとつは一見、無害な行いだ。資本主義社会で生きていくための順応、妥協、協調。それが潤滑油となって、大勢の人を死に追いやる資本主義の歯車を回している。こんなことを繰り返しているかぎり、私たちは愚かであるにもかかわらず、そうでないふりをする大バカ者であることをやめられない。
私たちの価値観、民主主義、自由、これらはすべて血塗られている。西洋世界や日本の人々が安楽な生活や物質的な富を享受できるのは、政府が他国で殺人を行い、盗みを働いているからにほかならない。西洋社会で左翼と呼ばれる者たちは何をしている? 紙面で抗議をするだけで、何のリスクも犯さず政治ゲームに興じて満足している、冗談みたいな連中だ。
要するに何が言いたいかというと、こういうことだ。私たちの、この資本主義に裏打ちされた民主主義社会においては、順応や妥協は許されないということ。システムは内側から破壊されなければならない。それも、言葉ではなく行動によって。自分たちが乗っている資本主義の列車を脱線させなければならない。私たち左翼の人間は、運動のための人集めや組織化に血道をあげることにかまけて、本質的なことから逃げるのはもうやめるべきだ。システムへの妨害工作は個人でもできる。
私たちは日々の暮らしのなかで、小さな革命を起こすべきだ。
スラヴォイ・ジジェクの次のような言葉を弟が教えてくれた。いわく、西洋のインテリは革命を歓迎する。でも、それはあくまでも「ここ」ではないどこかでなければならない。自分たちの住む国の外、たとえば、キューバとかニカラグア、ベネズエラなどで起きるといいと思っている。
私たちが支える資本主義経済、嘘にまみれた人殺しの民主主義、これらは解体されなければならない。ほとんどの人々は、偽善によって西洋の資本主義に与している。世界中の女や男や子供たちの汗によってその歯車は回っている。これを止めなければいけない。それができなければ、いつまでたっても私たちは笑われるべき愚か者だ。
* * *
イラクでは、子供たちが恐怖とともに夜空を見上げている
宇宙に星々の姿はなく
ただ爆弾だけが飛び交っているかのように
彼らは地上も恐れている
身の回りには癌に犯された人が何人も
以前は考えられなかったこと
(パレスチナの詩人、スーヘイル・ハマッドの詩 「瀬戸際にたたされて」より)
ブルキッチ・スレイマン 2010年12月21日
Blogger Comment
Facebook Comment